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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)3412号 判決 1987年5月29日

原告 福井県コンクリート二次製品工業組合

右代表者代表理事 林安雄

右訴訟代理人弁護士 石川幸吉

同 作井康人

被告 株式会社 北研

右代表者代表取締役 細井竹治

右訴訟代理人弁護士 吉原省三

同 野上邦五郎

同 小松勉

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

別紙目録記載の実用新案権の実用新案登録出願の願書に添附した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が「左右側壁部の両端上部間に水平耐力梁部を一体形成し、左右側壁部間下部を全面開放底部となし、現場にて前記全面解放底部にコンクリートを水路勾配に合わせて打設することにより、底部打設コンクリートを含めた両端部が断面箱形に構成されることを特徴とする勾配自在形プレキャストコンクリート側溝」であることを確認する。

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

主文同旨

(本案の答弁)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被告は、原告に対し、別紙目録記載の実用新案権(以下、「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)に基づき、原告が本件考案の実施に当たる製品(以下、「原告製品」という。)の製造販売を行っているとして、原告製品の製造販売の差止め、廃棄並びに金五八五〇万円及び訴状送達の日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払いを求める訴訟を当庁に提起し、右訴えが当庁昭和六一年(ワ)第二八一六号実用新案権侵害差止請求訴訟(以下、「本訴」という。)として係属中である。

2  本件実用新案権の実用新案登録出願の願書に添附した明細書(以下、「本件明細書」という。)の登録請求の範囲は、昭和五六年一一月三〇日に出願公告された際には、請求の趣旨記載のとおり「左右側壁部の両端上部間に水平耐力梁部を一体形成し、左右側壁部間下部を全面解放底部となし、現場にて前記全面解放底部にコンクリートを水路勾配に合わせて打設することにより、底部打設コンクリートを含めた両端部が断面箱形に構成されることを特徴とする勾配自在形プレキャストコンクリート側溝」(以下、「補正前の登録請求の範囲」という。)というものであったが、昭和五九年四月二四日に補正されて、「対向する左右の側壁部材と、この対向する左右両側壁部材の両端上部間に水平体力梁を設けて一体に成形し、該左右両側壁部材間の下部を全面解放形状とし、該下部の全面解放部を水路勾配に合わせたコンクリート打設面とすることを特徴とした勾配自在形プレキャストコンクリート側溝」(以下、「補正後の登録請求の範囲」という。)となった。以上のとおり、補正後の登録請求の範囲は、補正前の登録請求の範囲の「底部打設コンクリートを含めた両端部が断面箱形に構成されること」という構成要件を削除し、登録請求の範囲を拡張しており、実用新案法一三条によって準用される特許法六四条一項に違反している。したがって、本件実用新案権の登録が有効であるとしても、本件考案の技術的範囲は、実用新案法九条一項によって準用される特許法四二条により、補正前の登録請求の範囲の記載に基づいて定められるべきものである。

3  被告は、本件考案の技術的範囲は、補正前の登録請求の範囲ではなく補正後の登録請求の範囲により定められるべきである旨争っている。

4  原告としては、本件考案の技術的範囲を、補正前の登録請求の範囲により定めるのか、補正後の登録請求の範囲により定めるのかが明らかにならなければ、本訴において、原告製品が本件考案の技術的範囲に属するか否かの主張、反論をすることが不可能であるから、本訴の先決関係として、これを確定する必要がある。

よって、民事訴訟法二三四条に基づき、請求の趣旨記載の中間確認の判決を求める。

二  本案前の答弁の理由

1  中間確認の訴えは、本案訴訟の請求についての訴訟中に、その請求の先決関係に立つ権利又は法律関係の存否について争いがある場合、その存否についての確認を求める訴えである。しかるに、本件中間確認の訴えは、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が、請求の趣旨記載のとおりであることを確認するというものであって、一定の権利又は法律関係の存否についての確認を求めるものではない。

2  中間確認の訴えも訴えの一つであり、本来独立の訴えとして成り立ち得るものでなければならない。特定の物又は方法が権利範囲(技術的範囲・類似の範囲)に属することの確認を求めるいわゆる権利範囲確認の訴えは許されないものであり(最判昭和四七年七月二〇日民集二六巻六号一二一〇頁)、まして、単に本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が請求の趣旨記載のとおりである旨の確認の訴えは許されない。

3  原告の主張は、出願公告後の補正の無効を前提として、本件考案の技術的範囲は、補正前の登録請求の範囲の記載に基づき判断されるべきであるということであり、それは、まさに本訴において判断されるべきものである。

三  本案前の答弁の理由に対する反論

本件中間確認の訴えは、単なる権利範囲の確認を求めるものではなく、本件実用新案権の権利内容の確認を求めるものである。これが確定されない以上、原、被告とも、補正前後の登録請求の範囲の双方について主張立証を尽くさなければならなくなり、訴訟経済に反する。被告引用の最高裁判決は、「権利範囲確認の訴えによっては、ある意匠が登録意匠の範囲に入るか否かを確定するだけであるから、右の紛争解決目的を果たすうえにおいて適切有効とはいいがたく、その目的達成のために更に差止請求権の存否を問題としなければならない」としているもので、最終的紛争解決に直接奉仕せず、しかも実質的判断を必要とする試験訴訟的なものに関するものである。本件は、紛争解決の前提として、本件考案の技術的範囲の内容自体を、補正前又は補正後のいずれの登録請求の範囲により定めなければならないかを確定しなければならない場合であって、右事案とは異なり、むしろ、右最高裁判決の説示からすれば、中間確認の訴えが許されることが明らかである。

四  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1は認める。

2  同2のうち、本件明細書の実用新案登録請求の範囲が原告主張のとおり補正されたことは認め、その余は否認する。

3  同3は認める。

4  同4は否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  本件訴えは、いわゆる中間確認の訴えとして、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が請求の趣旨記載のとおりであるか否かという事実の確認を求めるものであることが、原告の主張自体から明らかである。

ところで、民事訴訟法二三四条一項は、中間確認の訴えについて、「裁判カ訴訟ノ進行中ニ争トナリタル法律関係ノ成立又ハ不成立ニ繋ルトキハ……其ノ法律関係ノ確認ノ判決ヲ求ムルコトヲ得」と規定し、これが法律関係の確認に限られることを明示しているから、事実の確認を求めることは許されないと解するのが相当である。

そうすると、前記のとおり事実の確認を求めるにすぎない本件訴えは、前記条項に反し、許されないものといわなければならない。

二  よって、本件訴えは、その余の点について判断するまでもなく不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安倉孝弘 裁判官 小林正 設楽隆一)

<以下省略>

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